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vol. 9 くじら戦記――会社と徹底抗戦した1年間の記録 3/6

ゆみ

わたしのがんばり=大きなお世話?

 思えば入社当初のわたしは、この会社の多種多様の問題点を改善しようと、毎日いきいきと一生懸命であった。「もっといいキャッチコピーにすれば集客数が増えるだろう」「もっと商品のデザインを若者向けにして、訴求力の高いチラシを制作しよう」―。わたしにできることは片っ端からやっていこうと思っていた。営業マンによってバラバラだった見積もりに、基準となる価格を設けて共有できるようにしたり、全体の納期やスケジュールが可視化できるようガントチャートをつくったりと、わたしなりの創意工夫を絶やさなかった。何もかもがアナログなこの古びた会社を、改革させようと熱心だったのだ。こういった“わたしのがんばり”が、この会社のためになると信じて疑わなかった。

 ところがそれは、わたしの自己中心的な幻想に過ぎなかった。会社からすればそれはおせっかいであり、わたしの思い描いていたような「弊社プロデュース計画」はポッキリと簡単に計画倒れしてしまった。 新しいアイデアを出せば煙たがられる。文章や文言の添削をすれば、へそを曲げられる。若者向けのデザインをすれば眉を潜められ、効率的なやり方を導入しようとすれば「俺らには俺らのやり方がある」と、はねのけられてしまうのだ。何をするにも、顰蹙を買うばかりである。「新入社員のくせに生意気だ」「大卒だからってかしこぶるな」「高学歴アピールかよ」「“ゆとり”が偉そうに」―――下品なことばを毎日のように言われ続けた。「若者の意見を取り入れよう」などと、よくもまぁいけしゃあしゃあと言えたものである。新卒の小娘がいきいきと仕事に打ち込み、実績を築きあげていくのが気に食わないようにも見えた。文句は言うもののなにもしない連中に心底腹が立った。このままでいいわけがないじゃないか。もう耳くそのほじりすぎで外耳炎にでもなってしまえ!わたしは怒っていた。

くじら戦記――会社と徹底抗戦した1年間の記録
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