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vol. 12 「迷走の4年間」から帰ってくるまで 4/5

まゆゆ

 

自暴自棄の果て

 

 しかし、新しく始めた仕事は、どちらも長くは続かなかった。

 

 スタートアップの企業は、膨大な仕事についていくことができなくなった。商材が目新しく感じられ、組織が若ければ、新しい環境で仕事をイキイキできると錯覚していた。大した覚悟もないまま参加するなど、無謀な話だったのだ。なるべくして、2018年夏ごろに離脱となった。

 

 ダンサーも同様だった。始めてはみたものの、続けるのは難しいと結論せざるをえなかった。自分を商材として売り続け、日々常に利益を出し続けなければならない。私にはその緊張感を保ち続けることはできないと、身をもって実感した。こちらも2018年秋にやめることにした。

 

 この2つの仕事を辞めたときは、専門学校を退社したときよりも、さらに自信を失なっていた。しかも、片足を突っ込んでいる程度の認識だったダンサーの仕事のため、生活が昼夜逆転しており、夜の仕事をしている意識がついてしまっていた。その意識からは、昼の仕事や日常は果てしなく遠い世界に見えた。

 

 安室奈美恵さんが引退したのは、このころだった。仕事にストイックに取り組む姿がよく報じられていた。よく聴いていたのが、「SWEET 19 BLUES」だった。「でも明日はくる」という歌詞が、絶望的なものにしか思えなかった。

日常への復帰

 

 何から手をつけたら良いかわからなかったものの、まずは昼夜逆転していた生活を元に戻すことから始めた。母の生活に合わせるようにつとめ、掃除・家事・洗濯を手伝うことから始めた。何気ない実家での日常生活が、母という人間の働きのもとに成り立っているのだと、初めて身をもって実感した。

 

 仕事も探したかった。だが、すぐに正社員として働くのは、気持ちの面で難しかった。新しい環境に適応する能力と自信が、ほとんどなくなっていたからだった。

 

 そこで、学生時代に5年半アルバイトとしてお世話になったドトールのカフェに戻ることにした。少し前にたまたま店長に会い、フリーターになったと伝えたところ、戻ってきたらと言ってもらったことがあった。そう言ってくれる人がいるのはうれしかった。もう一度最初からやり直す気持ちで、アルバイトとして働かせてもらうことにした。

 

 久しぶりの接客の仕事は懐かしかった。コーヒーを一杯出すとありがとうと言ってくれるお客さんがいた。学生時代に働いていたことを覚えていてくれたお客さんもいた。復帰してからすぐに名前を覚えてくれたお客さんもいた。そんなふうに私を見てくれる人がいることが、本当にありがたかった。毎日シフトに入るのが楽しみになっていた。発見もあった。学生時代に比べ、余裕を持って仕事に取り組むことができるようになっていたのだ。いつの間にか、できることが増えていたのだと思う。

 

 生活は次第に昼中心となり、やっと日常が戻ってきたと感じた。一人ではきっと戻って来ることはできなかった。そう思えば思うほどに、強い感謝を覚えた。

「迷走の4年間」から帰ってくるまで
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