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vol. 11 “絵”に連るれば唐の物 3/6

シャンクス

お客さんと私の不思議な関係

 

 「仕事は?」と聞かれたときに「絵を売っています」と言うと、大抵の人から少し怪訝な顔をされる。よくお客さんにも包み隠さず話すが、絵なんて買わなくても生きていけるし、言ってしまえば“ただの絵”なのに何十万円もする。だから人を騙して大金を支払わせている怪しい仕事というイメージが拭えないのだろう。もちろんそういう方法でお金を手に入れている人たちがいるのも事実だから仕方のないことだと思うが、それはそれである。

 

 また、仕事自体も激務である。休憩もろくになく12時間働き詰めで、酷い時は出張続きで12日間家に帰れなかったりする。そんな勤務状況を知った人からは、更に怪しい目で見られてしまう。もちろん仕事がうまくいかず、お客さんから購入を断られることもしばしばだ。それでも私が3年間この仕事を続けてこられたのは、私の話に動かされて絵を買ってくれる人がいる有り難さと面白さがあるからだ。

 

 私が仲良くさせてもらっているお客さんの中でも、特にその人との関係をふとよく考える女性がいる。

 

 彼女と出会ったのは私は働き始めてまだ2ヶ月の頃だった。24歳、フリーターの女性である。兵庫県のショッピングセンターで開いた小規模な展示会で、彼女は彼氏と買い物の途中、展示会の看板を見つけてやってきた。私の会社ではディズニーのアーティストの絵も扱っているのだが、彼女もディズニー好きだった。いつものようにアプローチをしていたら、どうやらその女性はとあるディズニープリンセスが大好きで、グッズも大量に集めているということがわかった。そして彼女は一言、「そのキャラクターの絵があったらやばい」と言った。つまりそこそこ高額な絵を初めて眺めながら、「好きなキャラクターの絵があったら私は買ってしまうかもしれない」とボソッと言ったのである。

 

 もちろんこちらは仕事なので、会場の責任者にそのことを報告をしながら、運よくバックヤードにしまってあったそのキャラクターの絵を見せてセットをし、トークをした。その絵を見せたときの彼女の反応は今でもよく覚えている。歓声が上がり、目をキラキラ輝かせてその絵を色んな角度から、長いこと眺めていた。

 

 通常であれば、新入社員は一人で契約までもっていく力がないと判断され、途中で先輩社員に代わってもらい巧みな接客で契約まで結びつけもらう。その場合個人としての売り上げは先輩との折半となる。代わられるほうはあまり嬉しくない方法だが、会社として会場の売り上げ目標を達成させるためには当然のシステムではある。だから、買ってくれそうなお客さんが来たときはチャンスを逃さないために接客を先輩に代わられる場合が多いのだが、このときは責任者の計らいで有り難いことに私ひとりで接客をさせてもらった。アドバイスを受けながら接客をし、自分ひとりで契約までもっていくことができたのは、このときが初めてだった。

“絵”に連るれば唐の物
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