ホーム > 旅の栞OBOGコラム > vol.8 ふーみん 2/4

vol. 8 かけるのは、時と醤油と数と文章 2/4

ふーみん

卒業って、ゴールでしょ?

 そして2011年3月に文学部芸術学科を卒業。卒業式の6日前に東日本大震災がおき、卒業式という名のセレモニーは中止。かわりに学科ごとで卒業証書授与がおこなわれた。それは芸術学科の先生方と袴やスーツでめかしこんだ生徒たちが大教室に会するという、風変りな授業のような雰囲気でおこなわれた。思い返してみれば、入学式の先生紹介の光景とも重なるような気がする。

 連日の報道に胸を痛め、様々な言論が飛び交い、自粛ムードが世間を覆っていた。正義感を装った言説や、科学的根拠のない噂、「絆」というスローガン、いろいろなものが急速に立ち上がり、瞬く間に拡散していった。正しいことを見極める余裕もないほどに、大量の情報と感情が回線を介して渦になる。そんな最中において、久しぶりに集った友人たちとの他愛ない会話は、辟易していた気持ちをほぐしてくれた。卒業式がないために時間はたくさん余っており、写真を撮ったり寄せ書きを交換したり、各々が自由に過ごして学生生活を存分に惜しんだ。“卒業式”などなくても、むしろ、ないからこその貴重な一日だった。

 そして証書授与の際の、とある先生の一言が、今でもたびたび思い出される。

 【(震災があった)こういう時に、芸術は何ができるのか、考えていかなければならない】

 非常時に必要なものとして、物資やインフラが最優先事項になる。芸術など、腹の足しにもならないし、何の実益もない。しかし何かできることはあるはずだと信じたい気持ちは、自分が当事者ではないが故の理想論かもしれない。それでも、じっくりとこれに対する私なりの考えを導きだそうと思っている。答えを急ぐ必要はない、でも、忘れてはならない。

 2011年3月に、大学卒業という人生の節目を迎えることになったのは、千載一遇の巡り合せかもしれない。そうでなければ先生の言葉がこんなに響くことはなかっただろう。卒業したら終わりなのではなく、卒業からまた新たに始まったのだ。

かけるのは、時と醤油と数と文章
1 | 2 | 3 | 4