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vol. 7 平成版・東京ガールズブラボー? ──都内で働き暮らす日々のなかで考える 5/5
サラダ
卒論の延長で自分を捉え直す──東京に憧れる少女
会社を辞めて時間ができてからは、本を読む時間が多くとれるようになった。読む本は、卒論の延長で考えたいことに関連するようなものを読んでいる。
私は、卒論を『坂本龍一というイメージはいかにつくられたか──1978〜1986』というタイトルで執筆した。私自身が、70年代終盤から80年代中期に知的アイドルとして騒がれていた坂本龍一(*註3)に憧れていたことが出発点になっている。当時の雑誌・新聞記事から、坂本について語られている言説を集め、そこから彼の知的アイドルとしてのイメージを探っていくという内容だった。
論文は、当時の膨大な資料を集め言説をまとめることはできたが、その先の課題として、70年代終盤から80年代当時の歴史的・文化的背景を勉強したうえで集めた言説を考察し、当時の坂本のイメージをよりつまびらかしていくことが残された。
そうして、この時代について分かるような本を読んでいくなかで、80年代に縁のある漫画家・岡崎京子(*註4)の存在を知った。ちょうど世田谷文学館で彼女の展示会が開催されていたこともあり、それを観に行ったことをきっかけに、彼女の作品も読むようになった。
岡崎京子の初期の作品に、『東京ガールズブラボー』という作品がある。主人公である金田サカエは、札幌に住む高校3年生で、カルチャーオタクの女の子だ。サカエは、両親の離婚を機に札幌から念願の東京に越してくることになる。
作品の冒頭には、「(東京の)街をあるいたらサカモトキョージュやハジメちゃんに逢えるかも…」「キョージュ(*註5)に逢ったらぬけがけして愛人になっちゃお♡」などという台詞があり、改めて坂本龍一がこの時代のアイドルであったことを知る。
また、彼女は序盤でこんなことも言っている。「あたしショーライ ヘア・メークかスタイリストかイラストレーターかミュージシャンかデザイナーかエディターかコピーライターになりたいんです!!」。そこに出てくる職業の数々は、今の時代であれば、いわゆる「クリエイティブ系」に分類される「東京ならでは」の職業だろう。
1年前の編プロへの就職を選んだ私も「東京にしかない華やかな仕事を」と息巻いており、少なからずまさにこんな感じだった。こうして改めて、自分がいかに80年代当時の少女と同じ考え方をしていたのかということを再確認させられる思いがして、なんとも言えない気持ちになる。もう30年以上も前の話だ。
また、サカエは山手線に乗って興奮する様子を見せたり、ラフォーレ原宿や吉祥寺のペンギンカフェなど、固有名詞の羅列でもって都内で行ってみたい場所を次々と口にする。
これからもしばらく東京で生活する
そんな金田サカエのような東京に対する憧れを私も抱いて、「東京でしかできない仕事を」と実際に働いてみたが、現実はなかなかにハードなものであったことは、先述した通りだ。
むしろ、実際働いていて重要だと感じた、他者との関係のなかで仕事を遂行していくこと、そしてそこに見出されるやりがい自体は、その仕事が東京かどうかということはあまり関係がなく、おそらくどの場所に居てもどの職種においても変わらないベーシックなことだと思う。それを心のどこかに留め置きつつ、いまは新たな就職先を探している最中だ。
いっぽうで、私はまだしばらく東京での暮らしを楽しみたい気分でもある。
山手線に乗って友達との待ち合わせの場所に向かったり、家の近くのコリアンタウンで昼食をとったり、歩いて行ける距離の秋葉原を観光気分でおもしろがりながら散歩したり、スタバに入ってMacBookをカチカチやりながらキャラメルフラペチーノを飲んだりする生活が、愚かだと思いつつも、ただただなんとなく楽しい。
そうして、この憧れや楽しさに身をまかせながらも、要所要所で大事だと思ったことは心に留め置き、ふだんこうやって当たり前に行動していることについて、時折本を読みながら考えることは続けていきたい。
卒業から1年経ったいまの私の生活はこんな感じである。
おしまい