東京貼り紙マップ—上野公園編—

[ フィールドワークまとめレポート ]


エリアA

 エリアAでは、看板の向きが公園の外側を向いていることに気がついた。
看板 [画像]
エリアAはJR上野駅上野公園口から公園を利用する人が多く出入りするエリアだ。そこには上野公園内にある国立西洋美術館、国立科学博物館などの施設の宣伝・案内看板が多く設置されている。それらはどれも、上野公園に訪れた人が見やすいよう、外側に向けて設置されていた。人の流れを考えれば、そのように立てるのが当然だ。だが上野公園には出入り口が多数あり、さまざまな方向に人の流れができるため、看板を一方向から見るとは限らない。
車両進入禁止 [画像]
 また、出入り口によって建ててある看板の内容に違いがあると感じた。たとえばJR上野駅上野公園出口からすぐの出入り口には、上野公園の各施設での催し物の案内看板が多く立ててある。一方上野公園の北側の出入り口には、車両進入禁止の看板が多くたてられているのみで、上野公園の地図はあっても催し物の案内などは一つも発見できなかった。
このようなことから、ひとくちに上野公園といっても、どこから上野公園に入るか、そしてどの方向に歩いていくかによって、上野公園に対して持つイメージは変わるのではないかと思った。

エリアB

 エリアBでは、西郷隆盛像のある入口から日本芸術院会館の周辺までを調べた。西郷隆盛像の裏手では工事が行われており、工事現場の合間のベンチで休憩している人がたくさんいた。ホームレスらしき方々も多く、どことなく近寄りがたい雰囲気があった。
彰義隊の墓 [画像]
彰義隊の墓 [画像]
 西郷隆盛像より少し先に進むと彰義隊の墓がある。彰義隊の墓には花が供えられていたが、近くでよく見るとそれは造花だった。そばに置いてあった水の張ったバケツにも花が入っており、それもやはり造花だった。
水の張ったバケツに入っていた造花 [画像]
 花が供えられていることで、一見お参りをしている人がいるかのように見えるが、造花であるとわかると、反対にお参りをしている人の気持ちが感じられないような印象を受けた。実際、墓の前に溜まっていた水にはボウフラが大量に蠢いており、手入れはされていないようだった。天海僧正毛髪塔にも造花が供えられていたが、そこも水は濁り、落ち葉が散乱し、一部の本物の花は枯れていて、やはり手入れはされていないようだった。
 そこから上野の森美術館の方へ出ると、空気が一変したことを感じた。上野の森美術館や、その周辺のレストランが入っているバンブーガーデンは、建物が新しく歩道も整備されていて、西郷隆盛像の方の雰囲気とは全く異なっていた。こうしたことから彰義隊の墓の裏手あたりに見えない境界線のようなものを感じた。

エリアC

 エリアCは動物園前から東京都美術館、子どもひろば周辺を調査した。動物園前は一番人の目にうつるためか、貼り紙の数がとても多かった。美術館裏には立ち入り禁止の看板が立ち並び、美術館裏への入り口付近には車への注意をうながす看板が多かった。
安全利用表示シール [画像]
 しかし私たちがこのエリアCで一番注目したいところは子どもひろばの遊具に貼られていたシールである。安全利用表示シールというもので、遊具で遊ぶこどもの年齢や、遊ぶ時の注意を促すことが書かれている。このシールを貼ることで事故を減らすことがあると公式ページには書かれているが、これらのシールはどれも遊ぶときにはあまり目に入らないところに貼ってあることに気づいた。遊具の支柱の一番下の方や、遊具の裏側に貼ってあることが多く、付き添わなければいけない大人だけではなく、子どもの目線にも入りづらい。分かりやすい場所に貼ってある遊具もあったので、もちろんあえて見えづらい場所に貼っているわけではないだろう。私たちは、そのような場所に貼られていた理由として、遊具の形状的に他に適した場所がなかったからなのではないかと考えた。それにしても、安全を考えて作られ、利用者に確認してもらうことが目的であるにも関わらず、人目に付きづらい場所に貼ってあるのは本末転倒であると感じた。

エリアD

 エリアDは公園前交番から桜通りのパゴダまでを調査した。
公園入り口広場 [画像]
公園入り口は、広場になっていた。全体的に整えられている印象で、草木も刈り込まれている部分が多かった。モニュメントがとても多かった。カエルの噴水、国民栄誉賞を受賞した方々の手形の石碑などは周りの草もきちんと刈られていて、きれいに掃除もされているようだった。公園入口は、来場者の通過点である。入り口から入ってきたときの印象を良くするために整備が行き届いているのかもしれない。
 エリアDの看板は、立ち入り禁止や公園区域での禁止行為(飲酒禁止など)について、花の切り取り厳禁などが多かった。他のエリアに多くあったペットについての注意書きはほとんど見当たらなかった。桜通りには散歩コースが書かれた看板が多く、ペットとの散歩をする人も多いのではないかと思ったため、ペットについての看板がないことに疑問を感じる。
花の切り取り厳禁 [画像]
 また、さらに他のエリアと比較して感じたのは、ステッカーや落書きが少なかったことである。とくに桜通りは広くすっきりした通りで、立ち止まる人はおらず、みんな目的地に向かってまっすぐ歩いていくような印象を受けた。桜通りにある看板は草木の説明が書かれているものが多く、○○禁止の看板はほとんどなかった。禁止の看板は入口にかたまっていたように思う。茂みには猫が多く生息しており、自然にあふれた通りであることがよくわかる。立ち止まる人がほとんどおらず、閑散としているから猫が多くいるのかもしれない。

エリアE

 エリアEでは、JR上野駅公園口から上野東照宮までの東西にわたるエリアを調査した。 エリアEの一番の見どころは上野東照宮であった。上野東照宮では、鳥居や石灯籠、石碑などのモニュメントが多く見られた。それに対して、貼り紙やステッカーなどはなかなか見当たらない。東照宮入り口の鳥居の裏にはお札がびっしりと貼ってあったが、どれもボロボロで最近貼られたものではないだろう。
参道を抜け境内に入ると、国指定の重要文化財である唐門が姿を現した。しかしこれは、唐門に見せかけた巨大な貼り紙だった。
東照宮唐門 [画像]
 調査当日、東照宮唐門は工事を行っていた。貼り紙の正体は、改装工事のためにかけられていた保護シートだった。その保護シートに、実物大の唐門の写真がプリントされており、布製の唐門を作っていた。
ご丁寧にこの巨大な貼り紙の前には、英語と日本語で書かれた参拝の仕方案内の張り紙と、参拝用の鈴、お賽銭箱が設置してあった。この日、東照宮には外国人の姿も幾人か見られた。布製の唐門も含めこれらは、観光客に向けたサービスの一環でもあるのではないかと思われる。私たちも貼り紙の唐門を前にお賽銭をし、二礼二拍手一礼をした。なんとなく、釈然としない気持ちになる。奥行きの無い“カラ門”にお賽銭を投じれば、参拝したことになるのだろうか。

全体を見て

 このように各エリアに特徴が見られるが、全体を通して見ることで、各エリアに共通して見られるものや、特定のエリアでしか見られないものがあるということがわかった。
上野公園全体を通して数多く見られたものとして、動物・ペットに関する立て看板がある。犬の散歩でリードをつなぐよう注意を呼び掛ける看板や、動物の遺棄・虐待を防ぐための看板などがいたるところに見られた。しかし、エリアDにはそうした看板はなかったという報告もあった。
エリアBの西郷隆盛像の近くには「車いす利用案内図」という看板があり、彰義隊の墓にはスロープがあった。しかし、その他にはバリアフリーの配慮がされているエリアは見られなかった。
東北NEED OIL [画像]
そのほかに、施設や芝生などの立ち入り禁止や歩きタバコ禁止の看板が上野公園全体に数多く見られた。紙やガムテープで作られた簡易なものが多く、急ごしらえで作った印象を受けた。雨風にさらされて破損しているものが、そのまま設置されていることもあった。
 また、公園の管理する看板や地図などのほかに、外部から持ち込まれた張り紙・落書き・シールなども調査対象となっているが、それらはあまり発見できなかった。しかし「東北NEED OIL」というステッカーは、エリアA・C・Eで見られた。

※エリア分けは12年度長谷川ゼミが独自に行ったものです。


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