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vol. 11 “絵”に連るれば唐の物 1/6

シャンクス

明治学院大学文学部芸術学科2010年度入学、長谷川ゼミ5期生。卒業論文のテーマは『プリンセスとプリンス——ディズニープリンセス作品にみる男女関係の表象』。卒業後は絵画を販売する会社に勤務。

 

 大学を卒業して、私はゼミ活動中に内定をもらっていた唯一の企業に何の滞りもなく就職した。やっているのは営業、——売り込むのは安くても何十万円とする絵画だ。

 

 気付けばこの会社に入って3年が経った。社会に出ると「とりあえず3年」という言葉をよく耳にするが、私にとってこの3年間はとても濃厚で、あっという間に過ぎていったように思う。このタイミングでコラム執筆の声が掛かったのも、何か意味があるのではないかと思いつつ、卒業論文執筆以来の筆を執ってみる。

 

運命の(?)出会い

 

 経験がある人も多いと思うが、就職活動中に登録していた就活サイトに、「内定をもらうにはいつまでに◯社エントリーして、◯社面接を受けよう!」といった目標を掲げられていたのが嫌だった。サイトのマイページにはそれを視覚化した横長の棒グラフがあって、エントリーしている会社数から割り出した「あなたの位置はここ」という表示が常に目に飛び込んできたのをよく覚えている。数を稼いで内定をもらったからといって、そこで働きたいかは別だろうと意固地になって、当時大して就職活動を積極的にはやっていなかった。今思えば、”就活”に身を投じることで学生としての自由が減るような気がして、ただ抵抗していたのだと思う。

 

 そんなこともあり、私は自分が楽しいと思える仕事以外はやりたくないと考えていた。少ないながらも色々受けたが、面接が次々進むようなことはあまりなかった。流石にもう一度方針を立て直した方がいいかな、と考えていたときに出会ったのが今の会社だった。就活サイトで「絵」と検索を書けて一番上に出てきた会社だった。

 

 昔から音楽・美術・舞台・映画といった、いわゆる芸術の類は好きだったし、芸術学科に進学したのもそういう訳だった。父親は就職への心配から反対していたが、それを押し切って進学した。学生生活は本当に楽しいと思える物事のひとつだった。そんな経験から、今の会社が目に留まったのだろう。扱っている画家に覚えがあり、ふと大学2年生のときに遊びに行った絵画の展示会でもらった非売品のポストカードの端を見たら、同じ会社名が印刷されていたので、鳥肌が立ってすぐにエントリーをした。その後、有り難いことに初めて内定をもらい、二つ返事で入社を決意した。

 

絵画を売る

 

 たまに誤解されるのだが、絵画を売っているといっても自分が描いた絵を売っているわけではない。会社が契約している古今東西のプロのアーティストの絵を販売している。売っているのは主に版画だが、原画も少なくはない。ここで少し詳しく私の仕事の流れを記しておこう。

 

 最初に書いた通り私がしているのは営業だが、企業相手や飛び込み営業といったものではなく、一般の個人相手に行っている販売員のようなものだ。まず企画担当が用意した展示会場に私たち営業が割り当てられる。会場は、ミュージシャンがライブを行うような大きな施設からショッピングセンターの狭い広場まで様々だ。そこでパーテーション(仕切り)を立てて絵を飾り、入ってきたお客さんを相手に接客をする。

 

 ただし接客をするといっても営業というだけあって、頭と脚をフルに動かして接客をする。お客さんは、いくらその画家の絵が好きとはいえ、最初から何十万、何百万を払うつもりで絵を見にきていない。もちろん、広告媒体で展示販売会の宣伝はしているものの、広告では集客を増やすことに重きを置いているため本当に小さな記事しか掲載できない。だから、入ってきたお客さんはまず値札が付いていることに驚くのはよくあることで、壁にかかった絵を美術館のように一通り見終わったらほとんどの人がそのまま帰ろうとする。

 

 でも、それでは売上がたたない。

 

“絵”に連るれば唐の物
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