ホーム > 旅の栞OBOGコラム > vol.10 テルミン 2/5

vol. 10 あなたにわたしの話をしよう 2/5

テルミン

海外へ出ることを決める

 ちょうどそのころ震災の影響もあり、台湾にいる母方の親戚たちからは「海外へ出てはどうか」と連絡が来るようになった。海外に移り住むなんて縁遠い話だと思っていたが、調べてみると条件を満たすことで移民ができる国もあり、自分にも可能性があることがわかった。海外にはもっと自由になれるところもあるのだろうか。よく知りもしない人に土足で踏み込まれ、怒りを溜めこむこともなくなるのだろうか。憧れが日々募っていった。

 当時23歳。現状から逃げたくて変化を求める自分と、不安から現状を維持したい自分が交互に顔を出しては互いの説得を試みる日々が続いたが、最終的には無責任で自棄な自分が「とりあえず行ってみりゃいいじゃん」と両者を黙らせた。これまでほぼ誰かの期待通りに生きてきたのだから30歳までは好き勝手やるつもりで1回海外に出てみよう。もし本当に無理なら戻ればいい。決断を変えることは悪い事ではないと逃げ道を確保しつつ、移住に向けて動くことにした。

 カナダを移住先と決めたのは、抽選や婚姻など運や他人が関わる要素だけではなく、学歴や職歴などある程度自分でコントロール出来そうな方法で永住権の申請ができたからだ。そういった国は他にも数国あったが、多国籍で移民やセクシュアルマイノリティーにも寛容な都市と謳われるトロントが一番魅力的に思えた。世界最大級のプライドパレードがあることも決め手のひとつとなった。母はひとり娘が自分の元を離れることに寂しさを感じているようだったが海外渡航に賛成し、これまでいろいろと支援してくれた。父は何を考えているのか今でもよくわからない。

あなたにわたしの話をしよう
1 | 2 | 3 | 4 | 5