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vol. 7 平成版・東京ガールズブラボー? ──都内で働き暮らす日々のなかで考える 3/5

サラダ

編集プロダクションで働く

 「出版業界」とひとくちに言っても、さまざまな立ち位置がある。そのなかで、編集プロダクションはいわゆる版元(*註1)から依頼を受けて、本の具体的な中身を制作していく立ち位置だ。

 私の勤務することになった会社は、夫婦で経営している設立3年目の編集プロダクションだった。社内の構成員は夫婦2人と、契約社員として雇われた私、事務作業を担当するアルバイト女性の計4名だった。おもに旅行関連の出版物を刊行している出版社から多く依頼を受け、雑誌や書籍の編集・執筆を中心に行っていた。

 入社して4カ月ほどは、上司である夫婦の仕事を手伝いながら作業を覚えていく日々だった。制作上の複数ある工程のうち、手が足りなくなったところを手伝うという感じだ。そうして5カ月目で、茨城エリアの旅行雑誌の制作をメインで担当することになった。

 ここで、旅行雑誌を制作する工程とはどのようなものか、振り返ってみたいと思う。1冊を制作する期間は約3カ月ほどだ。

 まずは版元の担当者と打ち合わせをする。版元の本社に出向き、そこで担当者が用意した台割(*註2)と企画書を渡され、各ページでどのようなものを取り上げるのか説明を受ける。

 次に、それを持ち帰ってラフを作成する。ラフとは、ページのレイアウトを書いたものだ。打ち合わせで聞いた担当者の意向や要望を盛り込みつつ、具体的な誌面としての企画を練っていく。また、これと並行して、実際にそのページに掲載する物件を調べてリストにする。取り上げる物件は、旅行雑誌のため飲食店や土産店が多い。インターネットで検索したり、その土地の観光協会に電話したりして調べる。

 ラフとリストができたら版元の担当者に送り、チェックしてもらう。数日後、担当者の赤字が入ったラフが返ってくる。必要があれば電話で担当者と意見交換もおこない、各ページの方向性を固めていく。

 方向性が固まったら、今度は各物件に掲載依頼の電話連絡を入れる。そこで了承が得られれば、そのまま取材日時の交渉や、写真借用のお願いをする。話がトントンと進んで行く物件もあれば、セールスと間違えられて、なかなか聞き入れてもらえず、何度も電話して粘る必要のある物件もあった。

 そして、取材に行く。取材は、基本的に編集とカメラマンの2人で行く。編集の役割としては、カメラマンに誌面の構成を伝え、どのような構図や雰囲気で撮ってほしいかを伝える。また、店主から、住所や営業時間などの店の基本情報や記事として書ける情報を聞き、メモを取ってくる。

 取材から帰ってきたら、今度は入稿データを用意する。入稿データには写真、ラフ、テキストの3つがある。まずは、カメラマンから上がってきた写真や借り写真が手元に集まった時点で、掲載に使う写真を選ぶ。

 写真が決まったら、今度はもう一度ラフを書き直す。選んだ写真によってレイアウトが変わったり、版元とのやり取りで変更になった点を反映させる必要があるからだ。また、ここで書くラフは、入稿後にデザイナーの手に渡り誌面を組んでいく際の設計図ともなる。そのため、写真のタテヨコや細部の構成など、細かな指示も書き込んでいく。

 そして、テキストを書く。誌面に収まるよう、レイアウトに適当な文字数を自分で数え、その字数内でライティングしていく。文字数は少ないので、端的にわかりやすい表現であることが大切だ。

 これらの入稿データが揃ったら、版元に送る。そこからデザイナーの手に渡り、デザインソフトで組まれた誌面が、1週間後くらいに上がって来る。これを「初校」という。初校が上がってきたら、今度はこれをすべての掲載物件に送る。各物件の該当箇所を切り取って貼付けた資料を作り、再び電話を入れて、FAXやメールで資料を送る。確認してもらうことは、店舗データや文書の内容に誤りがないかだ。数百件ある物件のうち、期日までに返事が帰って来るところもあれば、来ないところもある。返事が来ないところには、また電話を入れてせっつく。

 返事が帰ってきたら、今度は初校に赤字を入れていく。物件の返事内容を反映することはもちろん、レイアウト的にこぼれてしまった文字は削ったり表現を変えるなどしてキレイに収まるよう調整をする。終わったら再び版元に送り、チェックがなされ修正をかけられた後、「色校」が出て来る。

 色校はプロダクションで手が加えられる最後の段階だ。素読みをして、初校で入れた赤字がきちんと反映されているか、日本語的におかしなところはないかを確認していく。ここで修正点があればまた赤字を入れ、再び版元に戻す。版元のチェックが入り、校了となる。

 このほかにも、付録の地図作成や取材スケジュールの作成、取材で商業施設や公園に入る際の申請の手続きといった庶務など、とにかくやることは盛り沢山であった。

*註1
印刷物の出版元・発行元のこと。ここでは出版社を指す。
*註2
書籍や雑誌の制作において、どのページにどんな内容を入れるかなどを示した設計図のようなもの。

平成版・東京ガールズブラボー?──都内で働き暮らす日々のなかで考える
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