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vol. 6 少しずつでも、確実に──パン屋で働きながら悩んでいること 4/5

えみし

クリスマス、繁忙期を迎える

 ベーカリーカフェでは、ちょうどそのころ、社員として私より前から入っていたスタッフの方が辞めてしまったばかりだった。それまで必要最低限の人数でまわしていたために当然お店はまわらなくなった。イートインやドリンクの提供をお休みし、販売に集中するかたちでお店をなんとか営業した。冬に近づくにつれて忙しくなるタイミングだったため、ピリピリした空気を感じていた。日に日に来店してくれるお客さんの数は増えているように感じられたし、並んでくださる時間もはやまっていた。ただ必死でレジをうつ日々が続き、お客さんとゆっくり会話ができる時間もなくなっていった。

 そんな中で思い返すのは、 去年の仕事のことだった。ここで、今の仕事をただの流れ作業のように行ってしまっては、去年となにもかわっていないことになる。環境がかわり、お店の規模や、一緒に働く方々もかわったのに、結局自分がなにもかわれていないことになる。飲食店の仕事は、毎日が同じことの繰り返しだと言われることがある。確かに、やっていることは毎日かわらない。事実、お店が忙しくなったといっても、やっていることは今までとかわらない。しかし、そこでほんとうに「毎日が同じことの繰り返しなんだ。」と思ってしまっては、ただの繰り返しになってしまう。これが、同じことの繰り返しになるか、それとも、毎日少しでも「昨日よりはやく、昨日より丁寧に、昨日より喜んでもらえるように。」と思えるかどうかが道を分けるのだろうと思う。その心がけのなかで、少しずつお客さまとの関係も作られていくのかも知れない。私が「昨日より喜んでもらえるように」と心がける。喜んでもらえるにはどうしたらいいのだろうと考える。お客さんの遠方からのお越しに感謝する言葉を述べる。ただ、それだけのことだろうとも、楽しみに来てくれているお客さんにはきっと響く。言ってしまえば、誰にでもできる仕事なのかも知れない。それでも、ここに立つことが、私なりの接客が、お店の雰囲気作りが、自分にしかできないかどうかは、すべて自分次第なのだと思う。いい意味でも悪い意味でも、そんなことを試されているような気持ちになった。

 ドリンクの提供をお休みしている期間、他のお店の方がコーヒーを淹れにきてくれるというイベントが何日間か行われた。それまで、店長とずっと二人で売り場の作業を行っていたのが、外部の方が入ることでお店の雰囲気も明るくなり、今のお店の苦しい状況を皆で一緒に乗り越えて行こうという気持ちを確かめ合うことができたような気がした。そのおかげで、最も忙しいクリスマスの時期を大きな問題もなく乗り越えることができた。

 私にとってもそのときのさまざまなお店の方との出会いは大きく、手荒れで悩んでいることをその間だけは、気にしなくさせてくれたような気がする。こんなにもたくさんの人と出会うことができ、それぞれの方々の、今のお店をオープンするに至った経緯などを聞かせてもらえる機会を持つことができた。このような機会は、以前の会社に勤めていたときには得られなかったものだ。

 工房だってそうだ。昨日よりきれいに、早く、丁寧に、生地ならなめらかに、それを日々心がけていられるかどうか。確かに毎日の作業は同じことの繰り返しだが、そこに、真剣になれるかどうかなのだろうと思う。実際に、いつも楽しそうに生き生きと仕事をしている社員の方は、自分が仕込んだもの、焼いたものへの責任感をしっかり持っている。それだけでなく、アルバイトへの指示やフォローも、自分で、もっといい方法があるのかどうかを考えられるように教えてくれる。この人についていきたいと思う人は、そんな人だ。

 年末にかけて、ベーカリーカフェではスタッフを増員し、少しずつ安定へと向かっていった。常連の方に「今年もお世話になりました。来年もよろしくお願いします。」と年末のご挨拶をすると、お客さんのほうも「こちらこそ来年も楽しみにしています。」と声をかけてくれた。こんなにもたくさんの人と関係を築けるこのお店は、やっぱりすごいお店なのだろう。そして、そんな場所で働けているということを認識して、そこで自分にできることをしっかりとやっていかないといけないと改めて思ったのだ。

少しずつでも、確実に──パン屋で働きながら悩んでいること
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