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2014.08.27
vol. 2 私の異界体験──1年間TV局のADをして考えたこと  3/3

ちえみん


 

 自分で道を作る

 他に『千と千尋の神隠し』をめぐる言説には、生き生きと働く千尋を「現代の子どももこう成長するべきだ」と称賛しているものも多かった。これらの言説は確かに現代社会に当てはまることかもしれない。しかし、言説のすべてが「正しい」とは限らないことを私は知っている。『千と千尋の神隠し』に関する多くの言説では語っていないことを私はほかでもない、ゼミから学んだのだ。

 ゼミで卒論を書くまで、私は「自分の所属する社会」になじもうと必死だった。

 誰かに否定されるたびに「ああ、私はだめなんだ」と思い、どうにか否定されないように、親の言う通りにし、友達の真似をし、あこがれのキャラクターであった千尋を心の支えにして、自分を守ることに必死だった。しかし、ゼミに入って「誰からも嫌われないように」してきた自分を少しではあるが、初めて客観的に見た。そして卒論を書いたことで、自分を見直し、私は「社会が求めている若者の型」にはまろうと必死だったのだということに気付いた。それと同時に、その型にはまらない生き方もあるのではないかということに初めて気付けた。

 それから、なんだか生きやすくなった。自分に甘くするという意味ではない。自分が思うように生きていこう。そう思ってその通りに考え行動することではじめて、自分自身が少し好きになれた。そんな自分に少しだけ誇りが持てるようになった。こう思えるようになったのはゼミのおかげだ。ゼミを1年間やってきたからこそ、私はADの仕事を1年間続けられたのだと思う。そして同時に、このままではだめだ、と1年で踏ん切りをつけて辞めることができたのだと思う。

 ADの仕事を始めたばかりの頃は、要領がよく、上司に媚びるのがうまい同期のほうが評価された。以前の私だったらそこで「どうせ私なんか」とふさぎ込んで、どんどん落ち込んでいっただろう。しかし、この時は「あの子と私は違う。私は私のやりかたで頑張っていこう」と思うことができた。そして、自分にできることを常にひたむきにやり、こうすればいいのではないか、ということは実践していくことで、すこしずつではあったが上司からも信頼されるようになった。

 そもそもわたしが誰かの真似をしていたのは、失敗したくないからだった。成功モデルのようにやれば安心・安全だと思っていた。しかし、そんな生き方が果たして楽しいだろうか?楽しくないだろう、それが私のだした結論だった。

 誰の真似もせず、自分の考えで生きていくことは簡単ではない。自分で道を作って行かなくてはいけないからだ。けれどそれは、誰の力も借りず、1人で進んでいくということとも違う。色々な人と出会い様々な意見を聞くこと。他人とそして自分自身と真摯に向き合いながら考え進んでいくことだと私は思う。

 『千と千尋の神隠し』では千尋は成長した、成長していない、という議論が多くあった。そういう二者択一の「結果」ではなく「成長」とはそこにいたるまでに経験し、考えてきた「過程」のことをいうのではないだろうか。突然何もかもが変わることはない。私はそれを、この1年で身をもって実感した。

 しかし、私自身何も変わっていないわけではない。今年の4月の後半からわたしは新しい仕事を始めた。その中で、「仕事の覚えが早い」「てきぱきしている」と言われることがあった。以前までの私であったらまず言われることはないであろう言葉である。こういうときに、「ああ、少しずつ私は進めているのだな」と感じるのだ。

 着実に日々私たちは進むことができる。しかし、その作業は時に辛く、根気強さが必要だ。どうやらわたしはこの作業が嫌いではないらしい。これもゼミと仕事を経験して2年間でわかったことである。これからまた新たな目標を探し、長谷川先生が言うように「くる楽しく」やっていきたいと思う。

 

 日々の余談

 余談だが、わたしはこの1年、やたらかつ丼と牛丼ばかり食べていた。最初の方こそカフェで、カフェラテとケーキ♪なんてこともしていたが、そんなものじゃ足りなくなった。自炊する時間が皆無なうえに、とにかくおなかがすくのだ。おそらくストレスもあったのだろう。

 わたしはこの1年ほぼ体調を崩さずに過ごすことができたのはこの高たんぱくな食事のおかげだと確信している。

 これはデミグラスソースチーズカツどんとかいう名前のものである。ソースの下は巨大なカツが潜んでいる。こんなのをペロリと食べていたのかと思うとゾッする。

 とりあえずの私の当面のちいさな目標はダイエットである。



おしまい     


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