第1期ゼミ長だった<ヤダ>さんには2012年8月24日にインタビューしました。
聞き手はあお、話し手はあかで色が分かれています。
それでは、ごゆっくりお楽しみください。
◆ゼミ一年目だから割となんでもやってみようという感じだった。
ちえみん 最初はゼミのことをお聞きしたいです。第一期生だったということで、前例がないなかどのようにゼミを進めてきたんですか?

ヤダ いろいろみんなで出し合って決めていくっていう感じでした。ゼミ内の担当決めでも、あれどうする?これどうする?その中で「ゼミ長どうする?」っていう流れがあったから私は「じゃあ私がゼミ長やるやるやる!」ってなってそんな感じだった(笑)



ちえみん 先生が指名するとかではなかったんですね!

ヤダ うん!わたしたちの中で「こんな係いるよね、合宿係いるよね」とかいいながら決めていった。

黒帝 全部自分たちで決めて?

ヤダ そうそう!前例がなかったから気楽だったんじゃないかなぁって思う。私は大学院に進んだこともあって、学部卒業後も院生として二期生のゼミに参加していたんだけれど、二期生の子たちは前例があるぶん良くも悪くもそれを気にしてしまうところがあって…。だから、前例がないっていうのは楽だったし、自由にできたなって思う。

黒帝 前例がない分大変だったっていうことはあったんですか?

ヤダ んー。あんまり大変だったっていうイメージはなかった。大変なことも楽しかった。私の代は私以外結構みんなしっかりしてたので、そこにどっかり乗っかるゼミ長って感じだったのが大きいかな。みんな手探りだったからね。ゼミ一年目だから割りとなんでもやってみようという感じだった。みんなで映画を見に行って批評したりっていうこともできた。

黒帝 それは自分たちから?

ヤダ 批評文は先生の提案かな、でも何を見るかはみんなで出し合いました。私の代は、ゼミの時間が終わって先生が帰ったあとも、長谷川先生の個人研究室にたまってわいわいして、あれやこれ作業するのが 楽しかった。そういう時間が充実していたからか、みんなでやっている感じが強かった。

ちえみん へー!私たちは研究室でたまったりしないです!

ヤダ そうなんだ。二期生の子たちも結構研究室にたまってて、卒業のときに記念品として長谷川先生の研究室に椅子贈ったりしてたよ。



◆すごいメディア系列面白いなって思った。

黒帝 ゼミに入る前のメディアの授業のことも聞きたいです。

ちえみん <ヤダ>さんが一年のときにメディア系列(*)ができたんでしたよね?
*メディア系列
ヤダ 私は2006年度入学だけれど、もともと美術史学系列志望だったから実は1年のときにメディア系列の授業はうけてなかったんだよね。でも、2年のときに系列選択するでしょ?その時に何を勉強したいかって考えて・・・。当時ポスターとかに興味あったんだけど、描かれている絵をみるかポスターそのものを見るかで悩んだから、長谷川先生に突撃で相談しにいった。長谷川先生は覚えてないらしいんだけど「絵なら僕の所じゃないだろうけれど、なにか疑問があったりしたら気にせず聞きに来ていいから」っていってもらって、あ、いい先生だな、この先生に教わりたいっておもった。

ちえみん そうだったんですか。長谷川先生の1年次の授業は講義形式でしたか?

ヤダ 1学年の授業は最初はほとんど講義形式で、一回発表があった。

ちえみん メディア系列の授業はどうでした?

ヤダ すごく面白いなって思ったのは、メディア系列の子に限らず芸術学科って美大じゃないけれどやっぱり何かを作ることが好きな人が多いじゃない?だから、座学だけじゃなくて作ることもできることが面白かったなって。岡本先生の実習(*)だったり望月先生の音楽制作(*)だったり…その点ではメディア系列は他と違って面白いなって思います。
*岡本先生の実習
*望月先生の音楽制作
ちえみん 自己紹介ツール(*)など私たちのときはグループになって考えていたのですが、その形はかわってないですか?
*自己紹介ツール
ヤダ 自己紹介ツールを作る、という授業を2年のときに受けたんだけれどそれは4人1グル-プだったね。

ちえみん 私は最初どうしてグループでやらなきゃいけないのって思っていたんですよね。

ヤダ 一人でやるには無理があるだろうなぁとは思ってたけど、でも、その「どうして」って気持ちはすごいわかる。自己紹介ツールとかデジタルストーリーテリング(以下デジスト)(*)の時でも、グループの子たちに「集まろうか」っていっても4人のうち2人しかこないっていうときもあって…。
*デジタルストーリーテリング
黒帝 僕はメディアの授業を受けるまで、人と何かを作ろうってことがなかったので新鮮でした。

ヤダ そうかー。私はサークルで執行代を取る準備としての話し合いが結構多かったから、話し合いの面倒くささとか良さもなんとなくだけど知ってて…。
でも、それを授業でやるのはまた別の意味で面白いというか新鮮だった。グループワークってそこにいる人がだれでもいいってわけではなくて、その人と密に話をするっていう時間が増えることだよね。
勉強って言ったらおかしいけど、バカみたいに真面目な話を照れながらでも話してもいいと思うし、でもそういうきっかけを作るのって難しい。
だから、デジストとか集中講義(*)とかを受ける機会があってよかったなって思う。
私はたまたまかもしれないけどデジストの班の1人と、本ではない本 のときに同じグループだった2人と集中講義 の班の人全員と結局ゼミが一緒になって…だからなんか運命的ですね(笑)。
みんな一生懸命だったからこの子と一緒に卒論ゼミやりたいなとか思ってました。だからメンバーがわかったとき「あ、このメンバーでゼミって絶対楽しい!」っておもったし、そういう子たちと一緒に卒論ゼミできるってなんてラッキーなんだろうって思った。
*集中講義


黒帝 そんなこと考えてなかった(笑)

ちえみん 私も本ではない本(*)で、<にゃんちゅう>と<まゆゆ>と同じで、一緒にやりたいって思った。
*本ではない本
えみし 普通の友達とも違いますしね。話している内に、いつの間にかお互いのことをよく知るようになっていつの間にかすごい信頼関係ができて。高校のとき一緒にごはん食べる友達とかとは別のカテゴリーですよね。



◆集中講義のときも「くるたのしい(*)ぜー!」って
*くるたのしい
えみし 自己紹介ツールの時とかに私たち先生に「くるたのしい」って言葉を言われてたんですが…。

ヤダ その言葉は、わたしたち06生でできましたね。

えみし えっ学生から?

ヤダ きっかけは覚えてないんだけれど、確かわたし達のときからいってましたね。集中講義のときとかも「くるたのしいぜー!」とか(笑)うん、06の集中講義の時から言ってたよ。

えみし そういえば、先生が「ワークショップをやっているうちに生徒からこういう言葉がでてきた」って言ってたかもしれない。

黒帝 06生がいろいろ作ってきたんですね。

ヤダ 一期だからね。

ちえみん 06の人たちは結構パワフルな人たちなんですか?

ヤダ 多いかもね、結構パワフルかも。

ちえみん デジストのテーマは、どうだったんですか?私たちのときは「今自分にとって切実なこと」だったんですけど。

ヤダ みんなで候補をだしあってこれにしようかって決めたよ。

ちえみん そのへんは私たちと違うんですね。

えみし それでもやっぱり自分が何を表現したいかというのはじっくり考えたんですか?

ヤダ それは一緒だと思う。

えみし あのときは私こんなに自分のこと考えられるんだっていうのを思いました。切実なこととか考えたことなくて…それがあったことで自分の意識とか考えがすごい変化してるなって感じてるんですが、<ヤダ>さんはそういうのはどうですか?

ヤダ 今まで思ってたことを、いい意味で全然違うんだって思った。「自分についても考えてるよ!」っていっても全然考えてないじゃんって(笑)「考える」っていうやり方を教えてもらった。本を読むのもそう。大学に入ってテクスト講読(*)の授業を受けて、はじめてあ、私って本読めてないんだ。読むってこういうことなんだっていうのを思った。それってやろうと思ってできることでもなくて…。でも変なデジスト作ったけど(笑)
*テクスト講読
ちえみん ちえみん:え、どんなデジスト作ったんですか。

ヤダ 『だいこんとにんじん』っていうクレイアニメを…笑。他の制作ものでもそうなんだけれど、私は自分が作るものに自分を登場させたくなくて、これも自分を生きてる人ではなくクレイアニメでおきかえた。やっぱ自分を見るのは苦手なのかも…。



ちえみん その後、ゼミでは自分を隠したりせずに?

ヤダ うーん。自分を隠すことから脱却できてるかわからないかな。たとえばだけれど、卒論とか修論も自分にあぐらかいていてできなかったと思う箇所がいっぱいある。ただ、それに気づけるようになったっていうのはあるかな。長谷川先生の授業って、最後に振り返り書くでしょ?そういうのが大きい。思うだけなのとそれをきちんと手で書くのは違いますよね。

さちこ 4年間集中講義見てきて、どうでしたか?

ヤダ なんらかの転機になるひとはいるかもね。私の印象だけど、集中講義が卒論ゼミとるかとらないかっていう境目になるひとが多いみたい。
毎年、終了後の飲み会に出ると、「集中講義楽しかったけど、でもすごいくやしいです…」って話しかけて来てくれる学生が結構いて、その悔しさとたたかいたいならかたちは違うけれど卒論ゼミでリベンジしてもいいよ!と心の中で思ってる(笑)
リベンジっていうとちょっと変だけど。なんだろう、結局いわゆる友達以外の誰かと一緒に協力するっていう…自分だけでなく一緒に高め合いたいって思わないとゼミ無理じゃないですか。そういう意味では集中講義がターニングポイントだと思う。

ちえみん 年によって発表とか全体の雰囲気って違うんですか?

ヤダ 違うね!それぞれの年で全然雰囲気違うなって思う。年によってというかほんと班ごとに全然違う。ゼミもそう。去年どうでしたかとかきかれるけど、一応答えるけど意味ないよって。だって人が違うから。



◆私がやってることってなんだろうって

ちえみん 前に先生と<ヤダ>さんの話になって…「たこつぼ」という言葉が出てきたんですけど…。

ヤダ チームたこつぼのこと?(笑)チームたこつぼっていうのがありまして、主に<きーにゃん> だったり、ボカロについてやった<島> とか…私は<黒帝>もそうだと思うんだけど。たこつぼって…中はとても居心地が良いからそこから出るのが難しい。自分がたこつぼの中にいるってこと自体を客観的に認識するっていうのとそれにふんぎりをつけられるかっていうのが難しい。
私はコスプレっていうテーマだったけれど自分がコスプレをやってることを楽しいって思う部分と人がやっていることを見るときになんとなく齟齬があって気持ち悪いなとか不思議だなって漠然とおもってた。私がやってることってなんだろうって。自分が楽しいって思ってることがわからないのにやってるのって変じゃない?だから卒論はコスプレについて書こうと思った。けど、好きなとこだから分からないこと、気づけないこともある。Love is blind的な…(笑)
私はコスプレが好きって言うよりも知りたいっていうことにシフトしてたから、調べていくうちに本当に嫌だなって思うこともあったし、昔楽しんでたような楽しみ方もほぼできなくなった。そこに至るまでは気持ちだけではできない部分もあって、今までそれで無意識にやってきたからそれを意識的に疑うのがすごく難しい。 普通にやってきたことを意識的に掘り返すって普段やらないことだから、そういうふうに考えると今までの授業が卒論について考えるっていうことの練習になってたのかなって思う。

ちえみん やっぱり自分が好きだと思ってたことが「あれ、好きじゃないんじゃない?」っておもったりしたんですか?

ヤダ 好きじゃないって言うより手放しで楽しめないなって思った。何も知らなかったときと同じようにはやっぱり楽しめないよね。



◆ゼミいいなーとか!絶対楽しいじゃん!

ちえみん 長谷川先生と長くやってきたじゃないですか、一番付き合いとしては長いと思うんですが、長谷川先生についてお聞きしたいです。
最初に長谷川先生の授業受けた時とか、出会った時の印象ってどうでした?

ヤダ 恥ずかしい(笑)初めてちゃんと話したのは、さっき話したポスターについて相談しに行ったときだね。それまではほぼ面識なかったから。長谷川先生に限らず芸科(*)の先生に言えるのは、生徒をひとりの人としてちゃんとみてくれるというか生徒と話をしようという気持ちがあるっていうのがすごいわかる。長谷川先生に会ったことで人生のラッキー相当つかったなって思う…。
*芸科
ちえみん 最後に、この6年間どうでしたか?

ヤダ うーん。私の中ではまだ終わってないっていう感じがある。もう、これやったら単位がでるよっていうことはないけど、それとはまた別で続いてるよね。
いわゆるお勉強のためだけの頭の使い方を教わったわけではないから、そういう意味ではこれまでのことを思い返して自分で考えることができるよね。ずっと続けるのは難しいけど、あのときああやって乗り越えたなとかいろいろ話し合ったなとか思い出せればそれでいいと思う。
ゼミのOBOGは年に一回でも後輩のゼミ生の様子見て、あんなだったな私もって。あーあ。だって現役のゼミいいなー!絶対楽しいじゃん!
――註――
メディア系列
2006年に新設された芸術学科の芸術メディア系列のことです。
芸術学科では、2年時からさらに専門的な分野を学ぶため4つの系列
(芸術メディア系列、音楽学系列、映像芸術学系列、美術史学系列)の内、1つを選択します。

岡本先生の実習
芸術メディア系列で演劇学について教えてくださっている岡本先生の実習です。
岡本メソッドと呼ばれています。

望月先生の音楽制作
元メディア系列の先生です。
夏休み期間にパソコンを使って生徒自身が音楽を制作する講義を行なっていました。

自己紹介ツール
2年次前期の授業で、「名刺ではない名刺」として
自分を紹介するのにもっとも効率的なツールを発明しました。
詳しくはアーカイブページでご覧ください。

デジタルストーリーテリング
2年次後期の授業で作成した写真とナレーションを使った映像作品です。
「今自分にとって切実なこと」をテーマに製作しました。

本ではない本
3年次後期の授業にて、4,5人のグループで制作した「雑誌」です。
それぞれ関心のある題材で論考を書き、既存の本(冊子)とは異なる形の「雑誌」を発明しました。
詳しくはアーカイブページをご覧ください。

集中講義
3年次の夏休みに受講するメディア系列必修の講義です。
3日間、あるテーマについてグループで話し合い、最終的に上演形式で発表を行います。
<ヤダ>さんが受講した年は「なぜ働くのか」というテーマでした。

くるたのしい
「くるしい」+「たのしい」という造語です。
長谷川先生の授業に真剣に取り組めば取り組むほど辛いですが、
それを乗り越えた時に感じる楽しさがあります。
実は長谷川先生が大学院に通っていたときにはすでに
「くるたのしい」という言葉を使用されていたそうです。

テクスト講読
読解力を養うため様々な本を読み、その本についてレジュメを作り発表を行う講義です。
芸術メディア系列では3年次に行います。

芸科
芸術学科の略です。