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第2期ゼミ長<テルミン>さんには2012年8月26日にインタビューしました。
聞き手はあお、話し手はあかで色が分かれています。
それでは、ごゆっくりお楽しみください。


◆こういう人達が集まってるんだったら、私もゼミ生たちのために何かやりたいって思って

ちえみん

まず、ひとつめの質問として、先生の授業を受けてきて、今の自分にどんな影響があるかっていうことを聞きたいです。

テルミン

あたしね、ゼミ長始めたの6月くらいだったんですよ。その時、一度全員が就いていた役職を見直すことになりまして。
新しくゼミ長をやりますって立候補したのが、私だったのね。<みーこ>さんが副ゼミ長になって。

ゼミ長をどうしてやろうと思ったのかっていうと、5月末の、第一回目のテーマ発表をした時に、自分がレズビアンだと いうことを初めて大勢の前で言ったの。
それで、返って来たリアクションペーパーに「驚いたけど、全然平気だよ」みたいなことがいっぱい書いてあったのね。あとは普通に発表に関するつっこみとか。
自分のことを話すのってさ、怖いじゃない。内面に抱えてるものを人の前で話すのはすごく緊張するし、嫌な思いをするかもしれないって思ったら怖いし。
だけど皆が真剣に話を聞いてくれて。自分が関心のあることを、嘘つかずに、正直に発表して良かったなって思ったの。わたしは正直に言って後悔せずに済んだ。それで、こういう人達が集まってるんだったら、私もゼミ生たちのために何かやりたいって思って。
ゼミに入って後悔するようなことわたしもしたくないし、みんなにもさせたくないなって。
その気持ちゼミ長をやる、すごく大きい決心に繋がったかな。

それからは週5ぐらいで集まるようにはしたね。
ゼミ長になる前、わたしはスケジュール係だったから皆の出席確認したりしてたんだけど、あんまり集まらなくて。
だからまずは人をこの場に呼ばないといけない、っていうとこから始まったんだよね。ゼミ長としても手探りだったし。

ほんとに人を集めて発表の機会を設けよう、っていう風になったのは夏合宿(*)前かな。それまで個人で話を聞くって機会はあったんだけどね。
っていうのも、5月の発表の時は、事前に皆で集まって話しあったりしてなくて。誰がどんなことを発表するか知らない状態だし、話し合ってもないからみんな考えも浅くて。
いわゆる崖っぷちの状態だったのね。もう卒論書けないんじゃないかって戦々恐々としてたのよ。
だから夏合宿の前は、日を決めて皆ですごい集まって話してたの。わたしも自分のことすごく心配だったし。
そこまでは良かったんだけど、やりすぎちゃって。
夏合宿の発表の時に、なんかこの質問出たね、みたいな感じになっちゃって。

それはすごい反省点だったんだけど、当時は本当に巻き返さなきゃ!って思ってたから。
その辺りからは皆エンジンが回ってきた状態で、あとはばーって進んでくだけだったから、あたしはほとんどなんもしてないです。悪いお手本にはならないようにしてたくらい。
ゼミ長として何かやったのはそれぐらいかな。

*夏合宿
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ちえみん

でも最初の方は大変だったんですね。

テルミン

最初の方だけね。
6月くらいかな。あたし一回パンクして。『アトラクションの日常』(*)の講読と、集中講義(*)の準備と自分のテーマの発表があって。それに加えてゼミのことも考えなきゃいけなくて、みたいなことやってたら、なんか頭がカーっとなっちゃって。どうすればいいかなーって。

で、その時一期でゼミ長やってた<ヤダ>さん(*)が院生で様子見ててくれてたから、相談したの。
そしたら<ヤダ>さんが、あたしができることをやればいいんだよって言ってくれて。心が楽になりましたね。
いま思えば、そのときが「一期生」を意識するのを辞めるポイントになったのかもしれない。
<ヤダ>さんにはほんと感謝してる。

あとは、副ゼミ長にも助けてもらってたね。
もちろん副ゼミ長以外にも、いろんな人に相談に乗ってもらってたんだけど、副ゼミ長と合宿係を兼任でやってた<みーこ>さんにはゼミのことで困ったらよく相談にのってもらってた。なんか一人で何かを決定することに自信がなかったから、話聞いてもらって意見ももらって。
ものをはっきり言える子だったから、いっぱい手伝ってもらってた。わたし達は遅刻しないようにしようね、とか。
だからわたしは副ゼミ長いてよかったって思う。やっぱ肩書があると頼りやすいっていうのもあったしね。
すごく助かったなって思ってる。

*『アトラクションの日常』
*集中講義
*<ヤダ>さん


◆外出ないと、何も掴めないっていうのを、そこですごい思い知って。

テルミン

私ね、すごい引き篭もり気味だったの。

ちえみん

大学の時からですか?

テルミン

うん。大学はちゃんといくんだけど、土日とか絶対家でないし。
外に出始めるようになったのが、多分4年生の卒論書いてる時。なんでかっていうと、外でないと資料とかがゲットできないのよ。
大学の図書館もいっぱいあるんだけど足りないから、国会図書館とかいろいろ行ったりして。でも置いてなくて。
どうすりゃいんだこれー、と思って。

それで、調べてみたらレズビアンの人が集まれるスペースみたいなのがあったのよ。アパートの一室借りて。
狭いところなんだけど、そこにいっぱい資料があるの。

ただ私がそこ行った時にはもうたくさん人がいて、委縮しちゃって全然本棚見れなかったのよ。
どうしようと思ってたら、隣に座ってた女の人に話しかけられたの。
それで卒論執筆の為にこういうことを調べてて、こういう本が必要なんですけど、国会図書館にもなくて、ということを話したら、その人が「私持ってるから貸してあげるよ」って言ってくださって。必要な資料以外にも古い資料を貸してくださってね。
その時は誰だか分らなかったんだけど、その人、日本で初めてレズビアン向けの雑誌を作った人だったの。

今もその人とゆるいんだけど繋がりがあって。
早稲田でね、セクシャルマイノリティ関係の人が集まって話が出来る講座があるのよ。その講座をその人が開いてて。
その人とご飯食べたりとか、話聞いたりとかもして。

それで、よく出かけ始めるようになったのかな。
とにかく外でないと何も掴めないっていうのを、そこですごい思い知って。
そういうところに参加するのは、本当に大事なことだと今すごい思う。
たしかに嫌なこともあるんだけど、まず外に出ないと。
もちろん本読むのは大事だけど、本の中だけじゃ駄目だし、かといって、その場に行って、ぼーっとしてるだけでも駄目だし。
この両立は大事だなって思います。



◆その子のやり方見てて、私もちゃんと言ってあげないと、失礼だと思って。



テルミン

ゼミに直接関係ないところだと、やっぱりデジタルストーリーテリング(*)(以下デジスト)は影響が大きかったですね。
内容よりもその授業をやったこと自体が、かな。
私が初めてグループワークしたのがデジストだったのね。

*デジタルストーリーテリング

黒帝

えっ、そうなんですか?

テルミン

1年の時に概論でグループワークやるはやるんだけど、まぁ…みんなあんまり積極的ではないじゃない。私もあんな感じだったんですよ。
あんまり表立って自分から参加していこう、っていう前向きな気持ちがなくて、誰かやってくれるだろう、みたいな他人任せなところがあって。
でも2年生は1年の時よりも少人数になって、みんな参加しないとやばいっていう授業で。先生にオーケーもらえない、やばい、ってなったのがデジストだったのよ。
作品作りは楽しみでもあったんだけど、メディアの授業自体に本気出さないとまずいぞっていう風になり始めたのはその辺からだよね。

そのデジストの時にね、四人班でやってて、そのうちの一人はゼミに入った子だったんだけど。で、その子も結構ちゃんと意見を言ってくれる子で。
その子のやり方見てて、私もちゃんとやらないと、言ってあげないと失礼だと思って。その時に自分の意見をちゃんと言う、っていうのを意識するようになったかな。

でも今卒業してから振り返ると、あぁもう全然ダメだな、ってすごい思う。ゼミやってからだと特に。
その時はもちろんちゃんと真面目にやってる、っていう風に思ってたんだけどね。

ちえみん

集中講義はどうでしたか?

テルミン

私の班ね、結構スムーズに進んじゃった班だったのよ。

黒帝

もう最初の時にマルもらえた(*)ってことですか?

*マルもらえた

テルミン

そう、結構最初の方にマルもらって。
その時はすごく嬉しかったんだけど、今振り返ってみると、もうちょっと考えられたんじゃないかっていう風に思うね。一般的な論に偏ったまま進んじゃったな、って。
つまり、新しい価値観を出してはいなかったな、っていう風に思って。

それがわかったのはゼミやった後かな。
卒論書いてる時っていろんな本を読むじゃん?そこでいろんな考え方に触れてくんだけど、その時に新しい世界がふぁーっと開けていく感覚が私にはあるのね。
集中講義の時は、そういうのがなかったな、って思った時に、あぁ、あのとき全然限界じゃなかったな、って思っちゃったのよ。

ちえみん

限界って難しいですよね。

テルミン

精神的体力的に限界なのは確かなんだけど、思考が限界かっていうとまだいけたなっていう風に思って、今考えるとそれがちょっと嫌だなって思う。

黒帝

発表形式は結構悩んだりしたんですか?

テルミン

あんま悩まなかったかもしれない。
私の班はスライドショーに合わせた劇をやったんだけど、周りの班がまだ先生にマルもらってる時とかに台本書いて、練習初めてたよ。
だから多分ね、余裕あったんだと思う。

黒帝

早くマルもらったっていうのは余裕になりますよね。

テルミン

余裕にはなったけど、それが果たしてよかったかどうかっていうのはわかんないね。



◆ゼミでやりたいと思ってたことに近いことをやってみようっていう試みだったのね。

ちえみん

先生の授業を受けてきて、今の自分にどんな影響がありますか?

テルミン

私ね、あんまり真面目な生徒じゃなかったのよ。

黒帝

意外ですね。

テルミン

課題とかはちゃんとやってくるんだけど、飲みこみが遅いタイプで。
卒業してから、「あ、この授業はこういうことだったんだ」って分かることの方が多くて。自分の関心あることもよくわかってなかったしね。
だから、影響ある事は、長谷川先生の授業で言うと、ほんと3年生の後半とかだよね。

ちえみん

そうなんですか。

テルミン

うん。
後半ぐらいからこういうことやりたいなって思い始めて。
「本ではない本」(*)、ってわかるかな?

*「本ではない本」

ちえみん

はい。ケーキですよね。



テルミン

そう。
その授業の時に、初めて自分がやりたいテーマを設定して書くことがあって。
三年後半だし、その時はゼミに入ることを意識し出していたから、ゼミでやりたいと思ってたことに近いことをやってみようっていう試みだったのね。
今考えると全然読み返したくないんだけど。(笑)



◆そういうのを、卒業してから改めて感じるよね。

ちえみん

振り返ってみて分かることっていうのは多いですか。

テルミン

多いね、すごい多い。今の方が、いろいろ話がわかるっていうのがあるかな。
『アトラクションの日常』読んだ?

ちえみん

読みました。

テルミン

私、読んでる時全然わかんなかったのよ、正直。なんか一個の見方しかできないっていうか。ピンとは来てなくて。
で、自分の卒論やって、卒業して、改めてその『アトラクションの日常』を読んでみると、自分の興味のある…私の場合レズビアンとか、同性愛とかのことだったんだけど、それにも言えることがいっぱいあるのね。
デモとかレインボープライド(*)に行ったりとかして、いろんな人に接していくうちに実感として湧いてくるっていうか。
そういうのは、卒業してから改めて感じるよね。

*レインボープライド


◆発表聞いてもらって、この人はすごい生徒想いな人だなって思って。

えみし

お話伺ってて、長谷川先生の名前があんまり出てこないなって思ったんですけど。

テルミン

そうね、長谷川先生のことね。
先生から、ゼミ長は、長谷川先生とゼミ生のパイプ役になんなきゃいけないっていうことを初めの方に言われて。
でもパイプ役ってよくわかんなくて、どうすればいいんだろう、と思って。

四年生の初めの方ね、結構まだ長谷川先生のこと怖かったんだけど、だんだん慣れてきて。
後半はテーマの話も聞いてもらったし、ゼミの運営のことについても聞いてもらったりとかして、アドバイスもらったかな。全体を俯瞰してみてって言われて、できるだけそれはやろうと思ってたけど、出来てたかどうかはわかんないね。

一年生の時は、長谷川先生も先生のうちの一人って感じだったんだけど、デジストの話を戸塚の教室で聞いてもらってて。
私は家が近くだったから、帰りの時間の関係で話を聞いてもらうのが結構最後の方で時間も遅かったのよ。それなのに、何十人もいる生徒の話を一人一人聞いてくれて、しかもアドバイスもしてくれて…、先生ってこういう人を指すんだって思ったのはその時が初めてかもしれない。
デジストの発表聞いてもらって、この人はすごい生徒想いな人だなって思って。

高校生の時ってさ、別に先生に個人的な話なんかしないじゃん。
だから先生に個人的な話をして、さらにそれに色々言ってもらう、っていう経験がなかったから、その時は、有難いなって思ったし。四年生になってからは卒論のアドバイスとか卒論に関係ない悩みとかも聞いてもらったりして。この学校、このゼミ入ってよかったな、っていうふうにごい思ったのね。

ちえみん

やっぱり卒業してからもその存在は変わらないですか?

テルミン

変わんないね。
もちろん尊敬できる人っていうのは増えたけど、やっぱり長谷川先生は別格かな。

――註――
夏合宿
長谷川ゼミで夏に行われる合宿です。卒業論文執筆中間発表のうちの一回がこの夏合宿にて行われます。この発表では、卒論のテーマまたは題材を決めることが目標です。
『アトラクションの日常』
長谷川一『アトラクションの日常』(河出書房新社,2009)
芸術メディア系列3年次の授業である「テクスト講読」で講読するほか、長谷川ゼミでは毎年講読発表が行われます。
集中講義
3年次の夏休みに受講するメディア系列必修の講義です。
3日間、あるテーマについてグループで話し合い、最終的に上演形式で発表を行います。
「なぜ働くのか」「なぜ学ぶのか」とテーマはその年によって変化しています。
<ヤダ>さん
長谷川ゼミ第一期ゼミ長です。大学を卒業した後、大学院生としてさらに2年間長谷川ゼミに所属していました。
デジタルストーリーテリング
2年次後期の授業で作成した写真とナレーションを使った映像作品です。
「今自分にとって切実なこと」をテーマに製作しました。
マルもらえた
集中講義では、各班の考えが深まり、最終発表に向けての準備をしていける段階かどうかを先生が判断します。
「本ではない本」
3年次後期の授業にて、4,5人のグループで制作した「雑誌」です。
それぞれ関心のある題材で論考を書き、既存の本(冊子)とは異なる形の「雑誌」を発明しました。
詳しくはアーカイブページをご覧ください。
レインボープライド
東京レインボープライド。2011年5月に設立された非営利団体です。
セクシュアルマイノリティの存在アピールを目的としたパレード形式のイベント「プライド・パレード」の開催が主な活動です。2012年4月29日には東京レインボープライド運営委員会として初のプライドパレードが開催されました。
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