第2~3期生<きーにゃん>さんには2012年9月11日にインタビューしました。
聞き手はあお、話し手はあかで色が分かれています。
それでは、ごゆっくりお楽しみください。


◆やっときたターニングポイントが、3年前期の授業

ちえみん 最初の質問ですが、長谷川先生の授業を受けてきて、今の自分にどんな影響がありますか?

きーにゃん 私と長谷川先生の関係ってちょっと不思議で、私が受験のときに面接をしてくださったのが長谷川先生と山下先生(*)だったんです。

*山下先生
ちえみん 濃い2人ですね…

きーにゃん 面接のときに、まわりの人が「ダリが好きです」とか「吹奏楽をやってました」って言うなかで、私1人「クラブが好きで…」って言ってて(笑)こんなんで大丈夫なのかなって思ってたら長谷川先生がとってくれたんですね。なので、長谷川先生なくしてこの学校には来なかったという。

ちえみん そうなんですか。

きーにゃん 長谷川先生に入れてもらったのに、私の興味はクラブに行くことしかなかったんで、1年の前期の数カ月をちょろちょろっと適当に行って、あとは全然行かなかったんです(笑)
そのときは学校のことを全然考えてなかった。それが2年の終わりまで続いて、ちょっとこのままだと確実に留年だなってことを思い出して、家族に「留年になるから辞めたほうがいいかな」って連絡したら「5年かかってもいいから行けば」って言われてなだめられて(笑)それで3年生になって復活したんですね。

ちえみん なるほど。

きーにゃん そう。でもそれまでと生活が違いすぎて、頑張って学校行くけど、ほんとに精一杯で。授業も遅刻したり、欠席する日もあった。そんななか、やっときたターニングポイントが3年の前期の授業で。

ちえみん メディアアート論(*)ですね。

*メディアアート論
きーにゃん そうそう。一応、長谷川先生の授業はほとんどとってたんだよね。それで、前期の最後の授業で、先生に「ちょっと話があるから、あとで廊下きてくれない」って言われて。

ちえみん そんなこと言われたんですか。

きーにゃん やばい、私なんかやらかしたんだと思いつつ行ったのね。先生から「きみ、全然きてなかったよね。どうしたのかなって思ってたよ。」って言われて、全部バレてたんだと思って(笑)「でも初めて会った面接のときからきみにはポテンシャルありそうだと感じたから、それを発揮できるようになればきっとおもしろいんじゃないか。」って言われて、「集中講義(*)期待してるよ。」って。そのとき最初は、なんで夏休みにまで学校に行かなきゃいけないんだと思って適当に行こうかなと思ってたんだけど、先生が「きみやればできると思うからがんばってね、じゃ!」みたいにさわやかに廊下で、私の肩をおしてくれて。それがあって、集中講義に行ったんだよね。

*集中講義


◆こういうふうに、なにかに取り組むのも悪くないなって思った

ちえみん 長谷川先生の授業で一番印象に残っている授業はなんですか。

きーにゃん 集中講義かな。それまでは、留年してもいいから、ぎりぎりでも卒業できればそれだけで意味あると思ってたから。

黒帝 留年してもいいと思ってたんですか。

きーにゃん 3年で学校行くようになったときにはフルで単位をとらないと留年決定だったんですよ。それまで長谷川先生の授業おもしろいなと思ってても、それに対して頑張ってみようみたいな気持ちはいまいち開花せず、自分の都合に合わせて適当に受ける生活で。それが、集中講義でちょっと頑張ってみようって思った。

ちえみん はい。

きーにゃん それで、それまで全然学校行ってなかったから、みんな自分より絶対よくできるだろうと思って、置いていかれるなと思ってた。でも意外と知識がないとだめとかそういうわけではなくて。まわりには「やめたと思ってたのに、なんでいきなりやる気あんの」とか「ちょっといきなり違いすぎじゃね」とか言われながらやってた(笑)

ちえみん そんなに違ったんですか。

きーにゃん でもやってるうちに、言いたいように言ったことに対しておもしろいねとか言ってもらえて、発表で一番にマルもらった(*)んだよね。「なぜ働くのか」っていうテーマだったんだけど、私は「まじで働きたいと思ってんだったら働きたい理由を言ってくれていいけど、私は今は働きたくないから。だから働きたくない気持ちしか喋れないよ」って言ったのね。そしたらみんなも働きたくないって言いだして(笑)班全員で働きたくないって発表したらマルくれて。そこでちょっと班の調子があがったともいうし、勢いづいたともいうし、これなら自分もやっていけるかも知れないと思った。こういうふうに、なにかに取り組むのも悪くないなって思ったんだよね。

*マルをもらう


◆ひとつなにか形にできれば、それはすごく嬉しいんじゃないかと思って



ちえみん ゼミに入ったきっかけはどういうものだったんですか。

きーにゃん 自分が今までそれさえあれば他はいらないと思ってたクラブに対して、ひとつなにか形にできれば、それはすごく嬉しいんじゃないかと思って。その時点では4年で卒業できる見込みなかったから、どうするかなと思って…でもやっぱりクラブが好きっていうのと、芸術学科が意外とおもしろいところだったってことにやっと気付いたから。それで、卒論に挑戦しようと思って、先生に相談しに行ったんだよね。私あと1年じゃ卒業できないから、2年間ゼミにいてもいいですかって。

ちえみん そういう相談をしたんですね!

きーにゃん 12月に先生に聞きにいったら、そのときはまだゼミ入るための面接もない頃で、紙面上で選んで決まるかんじだったので…今とはいろいろ違っていて、だから受け入れてもらえたんだよね。

ちえみん 2年でやった自己紹介ツール(*)とかデジタルストーリーテリング(*)はどんなふうに取り組んでいたんですか?

*自己紹介ツール
*デジタルストーリーテリング
きーにゃん 私やってないんだよ。

ちえみん やってないんですか!

きーにゃん だからゼミの1年目のときに、みんなは卒論書くけど、私はデジストやろうかみたいなかんじで、それでやったんですよ。

ちえみん ああ、ホームページで見ました。

きーにゃん そう。あれ作りはじめの自分の状態なんて、裏も表も上も下も一体化したみたいな人だったから、客観的に見るってなんですかっていうかんじで。

ちえみん (笑)

きーにゃん 卒論で自分が向き合おうと思ってるクラブとかそういう対象と自分の関係について、まず明らかにした上で、2年目に卒論書き始めるっていうのがやっぱり自分にとって必要なことだっていうふうに認識はしてた。だけど、クラブと自分との関係を洗い出していってそこに何があるのかっていうのをやっていくのは、結構大変でしたね。

ちえみん 最初にゼミに入ったときに、デジタルストーリーテリングを1年かけてやるってことを先生から言われたんですか?

きーにゃん <きーにゃん>今年度はどうしようかみたいな感じが1ヶ月くらい続いたかな。でもなにもしないわけにもいかないから、流れで、「じゃあデジストだなお前」って。

ちえみん 1年かけたデジストだったんですね。

きーにゃん そうなんです。全然うまくいってないときもあれば、なんにも考えてなかったときもあった…

ちえみん 中間発表とか卒論の発表のときには、その都度自分のデジストの案について発表したということですか?

きーにゃん こういうのを作りたいというよりは、自分はどういうことを考えたいと思ってるのかについて発表してた。自分がクラブに対してどういう気持ちを持っていて、どういうところが気になっていてとか、そういうことを考えていくかんじで。そんなにみんなと大きな差はなかったと思う。デジストに向けて、絵コンテ書くためにだいたいの流れをどうするかとか具体的に制作に向かうのは秋学期になってからだった。

黒帝 最終的に形にするものが違ったということですね。

きーにゃん そうですね。



◆影響が大きかったのは、やっぱりゼミにいた時間かなって思います



黒帝 ゼミ1年目と2年目でやっぱり違うなって思うところとかはありましたか?自分のなかでも違うだろうし、まわりも違うメンバーになるわけですよね。

きーにゃん うん、違うね。1年目はなにもわからなくてやってる。でも、2年目は卒論書くまでの1年を1回一緒に経験して多少知ってる状態なんだよね。みんながどういうふうに卒論に向かっていって、どういうところでつまづきはじめるとか、どういう取り組みが足りてないからそうなるのかとか…
それで2年目のときは、そこからまた1年前の自分みたいになんにもわからない子たちと一緒にやるじゃん。自分が言いすぎたら、なんでも<きーにゃん>が指摘してくれると思われちゃって自分で考えなくなっちゃうと思うし、かといって、なんにも言わないわけにもいかないから。だから、うまく言わないといけないんだけど、それがうまく伝わらなくて。1回やってる自分にはある危機感っていうのが全然伝わらなかったりして。それで、どう伝えればいいのかとか、そもそもどこを指摘していけばいいんだろうって悩んだところが、1年目とは違ったよね。1段上にいるってわけではないけど、0.5段ぐらい上にいたから(笑)なんか変なかんじですね。同期だけど、後輩だし。全く同じスタートラインっていうわけでもないし。

ちえみん そうなんですか。じゃあやっぱり2年ゼミやってよかったなってかんじですか。やっぱりわたしたちとは全然違う1年間と1年間っていうのを過ごされていたんですか。

きーにゃん そうですね、お得だと思う。1年目は1年目で10人いて、その10人と話したからわかったことがあって、2年目は7人で、その7人でやってわかったこともあって。要するに17人と一緒にやったかんじ。しかも濃い1年をそれぞれと過ごすことができたっていうのを、そのときよりも今の方が感じる。仕事してるとなにかと忙しいし、そういうふうに集中できる時間がなくなっちゃうから。そういう濃密な時間を特定の人たちと過ごせた時間が2回もあったのは、なんていい時間だったんだって思います。

ちえみん その時間って、今の自分にはどう影響していますか。

きーにゃん もちろん自分のターニングポイントになったのは集中講義だけど、長谷川先生の授業のなかで影響が大きかったのは、やっぱりゼミにいた時間かなって思っています。それが今の自分にどう影響してるかって言ったら、簡単には言えないけど…
でも、物事に対して自分が思ってることは、自分が思いだしたことなのか、思わされていることなのか、それとも自分が思っていると思いこんでいるだけなのかとか。それまでは、そういう判断は一切なかったし、すべてが一体ってかんじだった。自分が見えてるものがすべてだし、考えてることがすべてだし、感じたことがそのままそういうことなんだろうなって思ってた。しかもそれで、なんの問題があるのかって思ってたし。勝手に決めつけてる部分とかもいっぱいあったのに、それを決めつけてるっていう意識もなかった。
誰かと、なんの疑問もなく自分はこう思うって話したことに対して、「え、それそうなの?」ってつっこまれたり、指摘されたり、自分で考えたりして、ちょっとずつ広がっていって、平面だったものが立体的になっていって…そういうことが、考えることには必要なんだっていうことがゼミ1年目でなんとなくわかってきまして。

ちえみん はい、わかります。

きーにゃん 自分が考えられてることは、一部だけだったり、局面でしかないっていうのも、ずいぶんと壁にぶちあたって、思い知ったので…まだまだ考え方があるはずだとか、別の可能性を考えようとするようになった。それは、今もそうだと思います。

ちえみん はい。

きーにゃん そういうことを、考え方として、長谷川先生の授業をうけて得たものでもあるなと思います。あと私は共通の話題を持っていたり、同じような感覚をよく知っていたりする人と話すことのほうが多かったから、そのなかで盛り上がって喋ってただけだった。でも、私が知らないことを知ってる人たちとか、私が好きなことを知らない人たちとかと喋ることが、ちょっとだるいときもあるし、なんでこっちが話してることが伝わらないんだよとか思うときもありつつ、でも相手もたぶんそう思ってるんだってことを思ったりした。
そういう人たちと、気が合うとか合わないとかじゃなくて、関わってみるということが新たなところへ連れてってくれると思って、もっと接してみたいなって思うようになったかな。自分が交流していこうと思う幅がだいぶ広くなったんじゃないかなと思いますね。
あとは、もともと自分はクラブが好きだという気持ちがすっごいあれば、結果はなんとかなるといつも思ってたとこがあった。でも、その気持ちだけじゃなんとかなんないから、そこからどうする?っていうことが必要なんだなって。



ちえみん それは長谷川先生が言ってたんですか?

きーにゃん もともとクラブが好きだからクラブしか行かないで他はすべて捨てられる君の勢いみたいなのは、一般にはなかなかできない人のほうが多いから、それはいいとこだよって長谷川先生は言ってくれてたんですけど(笑)でも、好きだって言ってても卒論書けないじゃないですか。好きだからそれの好きな部分しか見ようとしないし、ぶつかればなんとかなると思ってるから。
だけど、好きだっていう気持ちがときに弊害になって、それだけじゃだめなんだなっていうことを知りました。おもしろいなとか好きだなって思う気持ちとバランスとって、それに向き合う姿勢とか、それとの距離を自分で察しようとするとか、そうやって向き合っていこうみたいな気持ち。両方が必要なんだなってことがわかりました。
好きだからこそそういうふうに向き合えるんだろうけど、でも逆に向き合えない部分もあるということがわかりましたね。だからちょっと悲しいときもあります。前はすごく好きだったからなんとも思ってなかったけど、それを好きな自分っていうのは結局どこかで作られたものだったり、どこかから寄せ集められたものの考え方だったり、やっぱりひとつの傾向でしかなかったりするんだろうなとか思っちゃうと、ちょっと無邪気なかんじはなくなったかなって。

ちえみん やっぱり、最初のすごく好きだ好きだってなってたころとは全然違いますか。

きーにゃん そうだね。好きだ好きだと言いつつ、それでいいのかなと思ってた。でも、結局卒論を書き終わったあとに、自分が好きだった世界とか、素晴らしいなと思って語ってたこととかって、全部こういうかんじのことだったのかも知れないなんとなく分かったときに少しショックではあった。でも、だからといってそれを嫌いになったわけじゃないし、まだそこにつっこんでいきたい気持ちはあります。

ちえみん 今もクラブはよく行くんですか。

きーにゃん この前も行ってきたよ。

ちえみん そうなんですか!

きーにゃん そんなにしょっちゅうは行かなくなってるけど、行ったらやっぱりその場に取り込まれたただのパーティーピープル(*)の振る舞いになる(笑)それで、それに対してたまに考えて、なにか書こうとするんだけど、そうやって書いてることと自分がやってることが全然違くて。そんなに単純な関係じゃないんだなっていうことを感じながらも、なんとかそれってどういうことだろうってまだ考えていることが、長谷川先生の授業を経て、一番得たものかも知れないです。
*パーティーピープル
――註――

山下先生
芸術学科美術史学系列の先生です。

メディアアート論
メディア系列3年次の選択必修科目のひとつです。メディア論の理論について実践を通して学びました。

集中講義
3年次の夏休みに受講する芸術メディア系列必修の講義です。
3日間、あるテーマについてグループで話し合い、最終的に上演形式で発表を行います。
<きーにゃん>さんが受講した2009年度は、「なぜ働くのか」がテーマでした。

マルをもらう
集中講義では、各班の考えが深まり、最終発表に向けての準備をしていける段階かどうかを先生が判断します。
自己紹介ツール
2年次前期の授業で、「名刺ではない名刺」として自分を紹介するのにもっとも効率的なツールを発明しました。
詳しくはアーカイブページでご覧ください。

デジタルストーリーテリング
(略:デジスト)2年次後期の授業で作成した写真とナレーションを使った映像作品です。
2010年度の授業では「今自分にとって切実なこと」をテーマに製作しました。

パーティーピープル
パーティーに参加する愛好者のことです。
他に、パーティーフリークやパーティーアニマル、パーティーキッズなどいくつかの呼称があります。

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